大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)3721号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について。

所論は、本件製造行為は、自己又は親族間の飲用に供するためになしたものであつて、販売の目的、乃至利益を得る目的を以てなしたものではないから、罪とならないものである旨を主張するに過ぎないから、上告適法の理由とならない。(なお仮りに所論の如き意図を以てなしたものであつて、販売、利得の目的がなかつたとしても、無免許酒類製造罪は成立する)。

弁護人山崎清の上告趣意第一点について。

被告人は、貧困その他の事由で弁護人を依頼できないときは、国に対して弁護人の選任を請求することができるのであり、国は、これに対して弁護人選任の義務を負うことは憲法の規定するところであるが、本件において被告人が裁判所に対し弁護人の選任を請求した事跡は記録上認められないのであるから、原審における弁護人選任の時期について、憲法違反を主張する論旨の理由のないことは、当裁判所判例の趣旨に徴して明瞭である(昭和二五年(あ)第二一五三号、同二八年四月一日大法廷判決参照)。(尚、本件においては、被告人は法定の期間内に控訴趣意書を提出し、弁護人は公判廷において、右控訴趣意書にもとずいて陳述し、かつ、弁護人選任に関する裁判所の措置に対しては、被告人からも、弁護人からも何ら異議を述べられた事跡のないことは、記録上明らかである。)。また原判決は、論旨指摘の最高裁判所の各判例に違反する点が認められないから、判例違反の主張は採用し難い。

同第二点について。

原判示第一の無免許酒類製造罪と同第二の無免許酒類製造罪とは、その仕込みを行つた時期を異にし、それぞれ別個の原料と器具を使用してなされたものであるから、所論の如くこれを包括して一罪とすべきものではなく、併合罪の関係に立つ各別の無免許酒類製造罪を構成するものであること、当裁判所の判例とするところである。(昭和二七年(あ)第四九七五号、昭和二八年四月二一日第三小法廷決定参照)。従つて、原判決が大審院の判例に違反するという論旨は刑訴四〇五条第三号所定の適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

所論「差押目録」は、三葉の書面から成つているのであるが、各葉の記載内容を検討すれば、右三葉の書面は合して一通の差押目録として完全なる一体をなしているものであること明らかであるから、右各葉間に収税官吏の契印がなく、国税犯則取締法施行規則一二条一項所定の方式に違反しているからといつて、ただその一事を以て直ちに右差押目録を証拠能力を欠く無効のものとすべきではない。而して右差押目録は第一審公判において被告人及び弁護人共これを証拠とすることに同意し、適法な証拠調が施行されているのであるから、原判決が右差押目録を事実認定の証拠に採用したことに違法はない。

次に、原判決は証拠の標目として「酒税法違反嫌疑事件証拠写真四葉」を掲げている。記録を見るに、「酒税法違反嫌疑事件証拠写真」と題する書面一通があり、その書面には、四葉の写真が貼附され、且つ、被疑者氏名、撮影年月日、撮影場所の各記載、撮影者の官氏名印及び右四葉の写真の側に、写真内容の簡単な説明が記載されており、右四枚の写真は、その貼附されてある書面と不可分一体の関係にあることが認められるのである。そして原判決が証拠の標目として特に前示の如く表示しているのであるから、所論の如く、四葉の写真のみを証拠に採用したものと解すべきではなく、却つて、その書面全部を証拠に採用した趣旨に解すべきものである。而して、右四葉の写真貼附の書面もまた、第一審公判において、被告人及び弁護人共に証拠とすることに同意し、適法な証拠調が施行されているのである。

以上説示したように、所論の差押目録及び酒税法違反嫌疑事件証拠写真四葉は、いずれも証拠能力を有するものであつて、且つ、被告人の自白を補強するに十分であるから、所論憲法三八条三項違反の主張は、その前提たる事実を欠き上告適法の理由とならない。

同第四点について。

裁判が迅速を欠き憲法三七条一項に違反したとしても、それは判決に影響を及ぼさないことが明らかであるから、原判決破棄の理由とすることができないこと当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一〇七一号、昭和二三年一二月二二日大法廷判決、判例集二巻一四号一八五三頁参照)。而して本件記録上略式命令請求書に保証書が編綴きれていないこと所論のとおりであるが、この一事を以て、略式命令請求書に保証書が添附されていなかつたものということはできないばかりでなく、被告人が略式命令の請求についで異議を述べた形迹も認められないのであるから、所論違憲の主張はその前提たる事実を欠き、所論訴訟法違反の主張と共に上告適法の理由とならない。

同第五点について。

所論は単なる法令違反の主張に過ぎないから、上告適法の理由とならない。(なお原判決挙示の証拠によつて、判示第二の無免許雑酒製造の事実が肯認できるのであつて、製造された酒類がメリケン粉、米麹及び水を仕込み醗酵させたものである場合には、その酒類は濁酒ではなく、本件の場合は雑酒にあたる。)

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同四〇八条、一八一条により主文のとおり判決する。

この判決は弁護人山崎清の論旨第一点に関する裁判官小谷勝重、同谷村唯一郎の補足意見を除き裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官小谷勝重、同谷村唯一郎の補足意見は次のとおりである。

山崎弁護入論旨第一点につき調査するに、本件は刑訴二八九条所定の必要的弁護事件であるのに、原審は刑訴規則一七八条(同二五〇条により控訴審に準用)所定の手続を履践した形跡がない。そして右は所論憲法三七条には違反しないが、訴訟法の違反である。しかし本件犯行は被告人の終始自白するところであり、被告人提出の控訴趣意書も事実を承認した上たゞ量刑の寛大を求めるものであり、且つ原審の量刑等に鑑みるときは本件右法令違反は、未だもつて原判決を破棄しなければ著るしく正義に反するものとは認められないから、本件上告棄却の本判決には以上の趣旨において同意するものである。そして、本点に関するわれわれの意見の詳細は昭和二五年(あ)第二一五三号、同二八年四月一日大法廷判決(集七巻四号七一三頁以下)に附したわれわれの補足意見のとおりであるから、右をここに引用する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例